I cannot ignore insects.

僕は虫が嫌いである。
家の中に虫が現れたら、涙ぐんでしまうぐらい嫌いである。
高野山は虫が多い。
我が家にはハエ叩きがある。
僕はハエ叩きが好きである。
飛んでいる虫をハタくと必ず死骸が床に落ちている。
虫には家の中に現れないで欲しいが、
ハエ叩きがそばにあるから、いくらか恐怖心が減ずる。
確実に殺せると思うからである。
殺せると思うから安心できる。
そんな自分が恐ろしくなる。
殺すことで安寧を得るなど殺伐とした思考が恐ろしい。
我が家には「榊原」と表札があがっている。
榊原以外は勝手に入ってはいけないのだ。
虫は勝手に入ってくるのだ。
彼らはどうして秩序を守らないのか。
秩序や倫理や道徳という言葉が大好きだ。
それは思いやりから生まれた言葉であるからだ。
自分があり、相手もある。
自分の意志しだいでなんでもできるのに、相手の迷惑を思うと敢えてやらない。
人とはなんて美しいのだろう。
しかしなんと脆い美しさか。
一方がそれを犯してしまうだけで、もう戦いだ。
命がけの戦いだ。
僕は君たちと戦いたくないんだ。
どこまでも自由な誰のものでもない空を飛んでいてくれたら僕は
「近付かないでね」
と思うだけだ。
家の中にだけは入らないでくれ。たったそれだけの願いなのだ。
僕に毎日殺させないでくれ。
僕は命を奪って平気でいられる人間ではないのだから。

まあ思いやることのできない劣等な生き物に何を言っても無駄か。
そういえば昨日の英語の授業でこんな文が出てきた。
It's no use talking to them.
英語嫌いの僕に英語を使わせるとは、つくづく彼奴らは……。