彼岸前に 石を磨けり 仏の子

祖母が紙袋に掃除セットを用意し、
叔母は僕を墓場に連れて行きました。
紙袋の中を覗くと、学祭のビンゴゲームで引いたハズレの亀の子タワシがありました。
このタワシは祖母にやったものです。
僕が用いることになるとは。
タワシで墓石を磨くと、緑色の汁が顔にはねました。
冷たい墓石、冷たい水。
亡くなった人を「冷たくなる」とはよく言ったものです。
しかし、そこにはいません。眠ってなんかいません。
お墓の前で泣く必要が無いのなら、お墓を磨く必要もありません。
お墓を磨くことが死者を思うことでしょうか。
お墓は石です。仏は木石に非ず。僕の尊敬する人は、そんな思想です。
死者を思うという形の無いことを、
墓石を磨くという重労働に置き換えて示す、
という全く道理に合わない偽りの達成感で満足するとは愚かなことです。
しかし、そんなことを呟いたらヒステリックな叔母は、
泣きながら僕を不孝だとなじるに決まっているので、
僕は黙って石を磨きました。