裸の王様

『王様は裸だと言った子供はその後どうなったか』という本が、
図書館の書架にあった。
僕はまさに小学生の時に「王様は裸だ」と指摘された立場なので、
そのタイトルに衝撃を受けてしまった。
あぁ、僕に恥をかかせた子供がいたことに。
覚えていないのだ。
僕は確かに裸だった。
自分の肌が見えていながら、その服が見えていないことに恐れを抱かずに、胸を張っていた。
言われてから認めたのか。はなから分かっていたのか。
王冠と赤いトランクスだけを身に付けて堂々としていた自分を覚えている。
しかし確かに「王様は裸だ」と指摘されたはずなのに、その後の自分を覚えていない。
堂々と去って行ったのか、卑屈に駆け去ったのか。
都合の悪いことは忘れるものなのか、
僕の記憶は指摘される前の堂々と胸を張った自分のままで終わっているのだ。
しかし20年ぐらいの時を経て、
あの時指摘をされた事実と、あの子供が子供でなくなっていることに気づかされた。
この世界は自分だけのものではない。
誰の上にも同じ時間が過ぎる。自分と同じだけ人も尊い
あの子供はあの時僕に間違いを指摘したけれども、
20年経って再び、間違いの本当の意味を教えてくれた。
僕は確かに「裸の王様」だった。