長靴を脱いだHERO

HEROは日本人であるため、
家に帰ると玄関で長靴を脱ぐ。
その瞬間HEROは「長靴を履いたHERO」ではなくなった。
11月19日、
御大師様の土地では前日とは違い本格的な雨が降った。
しかし雨が降っていると知っていて外出するほど
HEROは行動的ではない。
今日こそ長靴を履くべきHEROは長靴を履こうとはしなかった。
そしてHEROは室内で呟いた。
「彼の猫の履いていた長靴は革製のブーツさ。
 僕の長靴はゴム製の雨靴、レインシューズに過ぎない」
障子の向こうから聞こえる雨音に耳を傾ける
HEROの悲哀を誰も知らない。

HEROはただ雨を疎んじる人だった。
彼の猫は騎士だった。
猫に劣る英雄はただの人である。
HEROは徐々に激しくなる雨音に耳を傾けながら再び呟いた。
「飛ばない豚はただの豚さ」
紅色の飛行艇で空に飛び立つ豚がかつて言った言葉を呟いた。
紅色の傘を手に持ってぬかるみを歩く自分はどうか。
飛ばないHEROはただのHEROかも知れない。
でも救わないHEROはカッコよさにおいて彼の豚にも劣る。
「日本は平和だからさ」
言い訳を呟いても悲哀からは抜け出せない。
この国が乱れたとしても
彼は自分の活躍する姿を想像することができなかったから。
「この雨は僕の涙さ」
語尾にいちいち「さ」を付ける気障が、
彼の最後のプライドであった。